箱森町の家

設計
石井秀樹/石井秀樹建築設計事務所
施工
ASJ とちぎスタジオ[株式会社第一住宅]
撮影
鳥村鋼一

Comment

住宅の設計をする際はいつも、いかに特別な空間をクライアントに提案できるかを考えている。それは、同じ人生を過ごすのであれば、その人にとって特別な空間で時間を積み重ねたほうが、ずっと濃密で豊かな人生だと思えるからだ。敷地が持つ特徴が際立っている場合は、その力を素直に受け入れることで特別な空間は生まれる。一方で、敷地が無個性な場合は、いかにそこに特別さを見出せるかが計画の鍵となる。

計画地は整理された新興住宅街で、広い平地に似かよった住宅が整然と建ち並んでいる。そんな人工的に作り上げられた、無個性な低層の町並みの中で、青々と広がる自然の美しい空だけが際立って感じられた。人工的な街並みとは対象的な悠然とした自然の空、本計画ではこの空に特別さを委ねることにした。空はどこにいても見上げるとそこに広がっている。この空を見上げることなく、常に生活の一部として感じられるようにしたいと考えた。

そこで、南北に勾配を取った切り妻屋根の南面に、大きな穴をうがって空を切り取ることにした。勾配面にうがたれた穴に切り取られた空は、その勾配がゆえに、より水平に近い視角に取り込まれ、見上げることなく空を感じられる。

また、南側のプライベート・ゾーンの床面を北側のリビング・ゾーンより下げて、南の屋根をより低く抑えることで、北側のリビング・ゾーンから南へと向かって見える空を、より水平の視角へと近づけている。さらに、空をより身近に感じられるように、切り取るフレームのエッジを鋭角にして、軒先の厚みが視線の妨げにならないように配慮した。

切り取られた空は、青々としていることもあれば、雲が流れ、曇天から雨を降らせることもある。常に変化し続ける自然の空は、生活の背景となり、時には鑑賞するスクリーンとなり、この住宅を特別な空間へと彩っている。

(石井秀樹)

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